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教育長の部屋(2017年4月)

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年4月17日更新

「新しいスタート」にあたって

 また春が巡り、先週、各園・学校は、新しい環境と新しい友だちとの出会いとなる入園式・入学式を終えた。どの子もが早く園や学校に慣れて、実のある1年間になることを祈っている。

 さて、園や学校にはいろいろなタイプの子どもたちが入ってくる。教師には、それぞれの発達段階に応じて対応していくことが期待されている。「十把一絡」の教育では、子どもたちの個性を生かすことができない。そのことは頭の中ではわかっているのだが、私たち教師や親は、実生活の中では他の子と比較したり、できる・できないに目がいってしまったりしがちである。

 次は、私がまだ若かった30代の時の経験である。

 当時私は、「障がい」児学級、現在の特別支援学級の担任をしていた。当初は、彼らを「健常」児に近づけようという思いが強かった。子どもたちを何とかしたいという情熱は良しとしても、彼らにとってはプレッシャーしか感じない教師ではなかったかと思う。

 そして、担任2年目の国語の時間。

 1年生に入ってきたTくんは、話すことも書くこともできなかった。その日は、6年生のEさんと一緒に、「おしゃれなカラス」という物語を読んで聞かせ、その一場面を絵に描くという勉強をしていた。

 すると驚いたことに、それまで絵といっても、何の絵かわからない絵を描いていたTちゃんが、ひと目で「鳥」とわかる絵を描いた。私はうれしくなったと同時に、ふと、この絵を最後まできちんと仕上げさせて、おうちの人に喜んでもらいたいと思った。なぜなら、保護者から私の「指導力」を認めてもらい、「いい先生だ。」と思わせたかったからに他ならない。

 その時、あろうことか、職員室から呼び出しの電話が鳴った。私はとっさに隣にいた6年生のEさんに、「いいか、Eさん! Tちゃんはほっといたら色をぐちゃぐちゃに塗るやろ。そうしないように、しっかり見張っといてね。塗らしちゃダメだよ。頼んだよ!」と、きつく言い残して職員室に向かった。

 そして数分後、教室に戻った私が見たTちゃんの絵は、何とクレヨンで真っ黒に塗られてあった。もちろん、あの「鳥」が見えなくなってしまっていた。

 「Eちゃん、あれだけ見張っといてと言ったのに!」と叱りつけようとした瞬間、Eちゃんはニコニコしながらこう言った。

 「先生、Tちゃん、『夜の鳥』を描いたんだよ。」 

 「障がい」児と言われているEちゃんだが、見事に、Tちゃんが私から叱られるのを救ったのだった。まさに私自身が他の子との比較の中で子どもたちを叱咤激励する教育をしていたこと、そして子どもたちの行動の背景を考えるのではなく結果の追求に終始していたこと、それらの考え方の過ちを打ちのめされた瞬間だった。

 夢をもって登校している子どもたちの姿を見るにつけ、常に「がんばれ!」ではなく、少しのがんばりを認めて「がんばっているね!」と声をかけることのできるおとなになりたいと思う。

sakura1


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